【諸江史耶】最後はやっぱり『想い』

僕は毎年年末に「発表会イベント」と称して、生徒さんが演奏を披露する場を作っているんですけど、冗談抜きで、毎回生徒さんの演奏に感動しているんです。

生徒さんがこの演奏に費やした『時間』や『想い』というのが、透けて見えて、本当に素敵なんですね。

そこにあるのは、上手い下手の議論ではなくて、明らかに、その演奏に込めた『執念』なのか、『怨念』なのか。とにかく、『念』のたぐいのものが存在していて、そこにはもう磁場みたいなものが発生しています。

これはプロの現場でもそうなのですが、『想い』というのは、一発で見破られます。

例えば、プロの方が音楽を上げてこられた時に、「あ、この音楽家さん手抜いたな」「よくある仕事の一つとして、この作品と向き合っているんだな」というのは、すぐに分かります。それを判断するのが、音数なのか何なのか、具体的に説明することはできないのですが、本当にすぐに分かります。

「『執念』みたいなものが、透けて見える」って、嘘みたいな話に聞こえますよね。でも、これは全然、嘘ではありません。

その『想い』みたいなものって、すごく伝わってくるじゃないですか。あれはきっと、一般のお客さんも嗅ぎ取っているだろうと思います。

おそらく多くの人に心当たりがある近しい話としては、初対面の人と向き合った時に、話さなくても、相手のおおよその性格や育ちって分かることがありますよね。そして、だいたいそれは合っています。あの感覚と同じです。

もしあなたが、妥協したレベルのものを出して、ごまかそうとしたとします。一見きれいに整っているし、周りと比べても遜色がないようなものですが、自分の中ではどこかで、「だいたいこれぐらいでいいでしょ」という思いがある。

仮にそういうものを提出したら、その瞬間、あなたは「あぁ、この人はこういう仕事をする人なんだ。」と思われてしまい、一気に信用が落ちて、二度とその仕事を任されることはありません。二度目があるのは、「『執念』は絞り出していて、残すは技術だけ」という人のみです。

生徒さんの発表から、改めてこんなことを思った諸江でございました。

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